大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和51年(行ウ)26号 判決

原告 石田平

被告 広島東税務署長

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五一年六月二一日付でなした石油ガス税の決定及び同無申告加算税の賦課決定が無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  (本件処分)

被告は、原告に対し昭和五一年六月二一日付で石油ガス税額二五万一七〇〇円とする決定及び同無申告加算税額二万三五〇〇円とする賦課決定処分をなした。

2  (違法事由)

(一) 原告は、昭和四九年七月から昭和五一年三月までの間広島市熊野町深原平広島電鉄熊野自動車練習場内「チーム石田熊野教習所」(以下教習所という)において、広島ガス熊野販売株式会社(以下広島ガスという)及びユニオン瓦斯機工株式会社(以下ユニオンガスという)から、右課税の対象となつた石油ガスを購入したが、昭和五〇年九月から昭和五一年三月までの間にユニオンガスから購入した石油ガスのうちには着脱式の自動車用石油ガス容器により購入した分が含まれており、これについては、石油ガスを右自動車用の石油ガス容器に充てんした右ユニオンガスが石油ガス税を納税すべきであり(石油ガス税法四条一項)、原告に納税義務はない。

(二) 原告は、右以外の石油ガスを家庭用プロパンガス容器により購入し、これを自動車用燃料に使用したが、これについても以下の理由で原告に納税義務はない。

(1) 家庭用プロパンガス容器を自動車へ取り付ける方法は、右容器を自動車に固定された自動車用石油ガス容器に連結するという方法であつて、直接自動車のキヤブレターに取り付けたのではないから、石油ガス税法六条二項の取付行為に該当しない。

(2) 家庭用プロパンガス容器の自動車への取付行為を実際に行なつたのはすべて販売業者であつて、原告は同法六条二項にいう取付行為をしていない。

(3) 家庭用プロパンガスは、自動車用石油ガスに石油ガス税を加えたものより価格が高く、自動車用燃料としての性能も相当劣るから、家庭用プロパンガスを自動車用燃料として消費又は販売して同法を脱法しようとする者は実際上いないので、これを自動車用燃料に使用したとしても、石油ガス税を課すべき合理性はない。

(三) 以上いずれにしても原告には石油ガス税を納税すべき義務はない。

3  (結論)

よつて、原告は、被告が原告に対してなした本件石油ガス税の決定及び無申告加算税の賦課決定処分が無効であることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2、(一)の事実中、原告が原告主張のとおり課税の対象となる石油ガスを購入したことは認めるが、着脱式石油ガス容器によつて購入したことは否認し、これについてはユニオンガスが納税義務を有し、原告は納税義務はないとの主張は争う。

3  同2、(二)、(1)の事実中取付方法は認めるが、その主張は争う。

4  同2、(二)、(2)の事実は否認する。

5  同2、(二)、(3)の事実は否認し、その主張は争う。

三  被告の主張

1  原告は昭和四九年六月から教習所を開所したが、教習用自動車の燃料として家庭用プロパンガス容器に充てんされた石油ガスを使用することとし、同年七月から昭和五一年三月までの間、広島ガスからプロパンガス、ユニオンガスからプロパンガスとブタンガスがそれぞれ充てんされた家庭用プロパンガス容器を購入し、これを自動車に取り付けて使用した。購入使用した石油ガスの月別内訳は別表のとおりである。

2  家庭用プロパンガス容器はその機能上石油ガス税法二条三号、同法施行令一条二号所定の「自動車用の石油ガス容器」としての機能を有していないからこれに該当せず、自動車の燃料として消費するため家庭用プロパンガス容器を自動車に取り付けた場合には取付行為者において石油ガス税を納税しなければならない(同法六条二項、四条一項)。しかして、本件において右家庭用プロパンガス容器を自動車に取り付けたのは原告であるから、石油ガス税を納税すべき義務がある。

なお、仮に現実の取付作業を石油ガス販売業者あるいは教習所の従業員が行なつたとしても、右家庭用プロパンガス容器の取り付けの意思のあつたのは原告であつて、販売業者らは原告の指示ないし依頼によつて取り付けたのであるから、同法六条二項の取付行為者は原告と認むべきである。

3  したがつて原告は同法六条二項によりみなされた課税石油ガスにつき同法四条一項により石油ガス税を納税すべき義務があり、かつ同法一六条一項により毎月の課税石油ガスの重量及び税額を記載した申告書を翌月末日までに被告に提出して同申告をしなければならなかつたのにこれを行なわなかつたので、被告は原告に対し本件処分をなした。

4  仮に、被告の認定に誤認があり本件処分に瑕疵があるとしても、行政処分が無効とされるためには当該処分の瑕疵が重大かつ明白なことを要するところ、明白であるかどうかは処分の外形上客観的に瑕疵が一見看取し得るものであるかにより決すべきであり、当該根拠法条の解釈が分かれ得るような場合に、その一方の解釈に従つて行なつた場合は明白な瑕疵に当たらないと解すべきである。これを本件についてみれば法六条二項につき被告主張のような解釈をなすことは十分に根拠のあるところであるから、その瑕疵が客観的に一見看取し得るものでないことは明らかであり、明白な瑕疵とはいえない。したがつて、仮に本件処分に瑕疵があるとしてもその瑕疵によつて本件処分が無効となるものではない。

5  よつて、被告が原告に対してなした本件処分はいずれにしても無効ではない。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実のうち、原告が石油ガスを家庭用プロパンガス容器によつてのみ購入したとする点及び原告がこれを自動車に取り付けたことは否認し、その余の点は月別数量の点を含め認める。

2  被告の主張2の事実のうち家庭用プロパンガス容器が石油ガス税法にいう「自動車用の石油ガス容器」に該当しないことのみ認め、その主張は争う。

3  被告の主張3の主張は争う。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  被告が原告に対し本件処分(請求原因1記載)をなしたこと、原告が昭和四九年七月より昭和五一年三月までの間広島ガスからプロパンガスを次いでユニオンガスからプロパンガスとブタンガスをそれぞれ購入して、自動車用燃料として消費したこと及びこれら石油ガスの月別数量が別表記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  右購入した石油ガス容器の種類について

原告はユニオンガスから購入した石油ガスの中には着脱式の「自動車用の石油ガス容器」で購入したものも含まれていた旨主張するので、以下検討する。なお、その余の右購入した石油ガスの容器が家庭用プロパンガス容器であつたことは当事者間に争いがない。

1  成立に争いのない乙第一、第四、第六号証の一、二、証人高本定明の証言によつて真正に成立したと認められる乙第七号証、第八号証の一ないし四、第九号証、証人高本定明、同小早川誠の各証言によれば、自動車用の石油ガス容器(石油ガス税法二条三号)としては、従前「固定式」のものと、自動車からガス容器を取りはずして石油ガスを充てんすることができるいわゆる「着脱式」のものがあつたが、昭和四五年一二月四日運輸省令第九一号による「道路運送車両の保安基準」の一部改正で「液化石油ガスのガス容器及び導管は取りはずしてガスの充てんを行なうものでないこと」と規定(昭和四七年一月一日施行)されたことに伴ない、以後「着脱式」のものは使用が禁止されるに至つたこと、そしてユニオンガスからの購入石油ガスにつき、本来自動車用石油ガス容器であれば液状で使用するためのサイホン管が装備されていて通常残ガスが発生することはないが、家庭用プロパンガス容器では右サイホン管が装備されていないため残ガスが発生するところ、ユニオンガスの原告に対する本件請求書ではほぼ毎回五ないし四〇キログラムもの残ガスの発生が計上され、ユニオンガスがこれを引き取つていたこと、そしてなお、本件石油ガスは自動車教習所を営む原告の注文で、ユニオンガスが石油ガス容器にブタンガス(昭和五一年二月一七日ころより同年三月一一日ころまで)、プロパンガス(同年三月一三日ころより同月二五日ころまで)を充てんして右教習所まで配達したものであるところ、当時右充てん配達用の容器としてはユニオンガスとして家庭用プロパンガス容器の外に特に用いていた形跡はうかがえないこと、などが認められる。証人牧野哲三の証言(第一、二回)、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

2  右認定事実に照らせば原告はユニオンガスからも、いわゆる「着脱式」もしくはこれに類似の自動車用の石油ガス容器により石油ガスを購入したことはなく、すべて家庭用プロパンガス容器により購入したものと認められる。

三  本件石油ガス容器の取付方法及び取り付けた者について

前記認定事実の外、成立に争いのない乙第一、第二、第一一号証、証人高本定明、同牧野哲三(第一、二回)、同小早川誠の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和四九年六月末ころ自動車教習所を熊野に開所したが、付近に自動車用石油ガスの充てん場がないうえ道路を走行させられない教習所内専用(無ナンバー)車も多いためその石油ガス補給の方途に困り、原告は家庭用プロパンガス容器で石油ガスを購入しその配達を受けて同容器を自動車に取り付け走行させることを考えるに至り、昭和四九年七月から昭和五一年二月ころまで広島ガスから家庭用プロパンガス容器により石油ガス(プロパンガス)を購入してその配達を受け、その後前記のとおりユニオンガスからも家庭用プロパンガス容器により石油ガス(ブタンとプロパンガス)を購入してその配達を受け、いずれもおおむね、右プロパンガス容器(ボンベ)をそのまま原告の自動車後部トランク内に横位で載せて毛布・バンド等で固定したうえ、次いでブレザーホースなどで右ボンベの気化ガス取出口を右後部トランク内に固定して装着されている自動車用石油ガス容器の充てん口に連結して取り付け、同容器からその自動車のキヤーブレターに接続して自動車用燃料として使用したこと、当時右両ガス会社から配達により購入した石油ガスはほとんどプロパンガスを主体とした石油ガスであつたが、本件自動車用に用いた石油ガスは、本件以外の暖厨用に使用したものと一緒にいずれにも使用できる状態で購入されたものであること、そして、前記ガス容器の実際の取り付け者の点であるが、両ガス会社の従業員が家庭用プロパンガス容器を配達した際、当初ころ取付方法の指導あるいはサービス的な意味で現に右取り付けをなしたこともあつたが、その余の大方はガス販売業者の従業員が配達して一旦原告の石油ガス容器置場に運び込んでおき、教習所の従業員が石油ガスが失くなつた自動車に随時取り付けていたこと、なお、ユニオンガスが販売した石油ガスの価格は一キログラム当りプロパンガスが八八円、ブタンガスが七八円で、右ブタンガスが石油ガス税一キログラム当り一七円五〇銭を含まないものとすると(ユニオンガスの責任者証人高本定明の証言ではその旨述べている)、これを加えたブタンガスの価格はプロパンガスの価格より高いこととなることが認められ、証人牧野哲三(第一、二回)の証言及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

四  本件課税処分の適否

1  石油ガス税は、石油ガスのうち、まず「自動車用の石油ガス容器」に充てんされたものにつき、その充てん場から移出されたものについてその充てん者に課税すべきものとしており(石油ガス税法三条、四条一項)、次いで、「自動車用の石油ガス容器」以外の容器に充てんされたものでも、これを自動車用燃料として消費するため充てんされた容器を自動車に取り付けたときには、右取り付けた者を充てん者、その取り付けを充てん場からの移出とみなして右取り付けた者に課税すべきものとしている(同法六条二項)。

そこで、本件の場合についてみるに、前認定のとおり問題の石油ガスの充てんされた容器はいずれも家庭用プロパンガス容器であつて、これは通常、自動車に取り付けることを予定し、また充てんされた石油ガスを液状で取り出すことができる性状を有するものでもないから、偶々特異的な使用で自動車用に利用可能であつたとしても、石油ガス税法にいう「自動車用の石油ガス容器」(同法二条三号、同令一条二項、なお同法二二条では、自動車用の石油ガス容器の所有者はその容器が自動車用の石油ガス容器であることを表示しなければならないとされているが、本件容器にそのような表示のなかつたことは前掲証拠に照らし明らかである)に当らないことは明らかなものといえる。

2  そうすると、本件の場合は右容器を自動車に取り付けた者が納税義務者となつてくる。

ところで、元来石油ガス税は、石油ガスのうち「自動車用の石油ガス容器」に充てんされた場合など自動車用の燃料として使用されることの確定したものについてのみ、その確定した段階で、その確定させる行為をなした者に課税しようとするものと解されるところ、この観点から前記取り付け及び取り付けた者の意義についてみるに、証人小早川誠の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証により明らかなとおり、石油ガスはプロパンまたはブタン等を主成分とする通常液化し得る石油ガスをいい、その用途は通常プロパンの含有量の多いものを家庭用燃料に、ブタンの含有量の多いものを自動車用燃料に用いるなどの特性もあるが、用途は必ずしも限定されず、いわゆるプロパンガスを自動車用に用い、ブタンガスを工業用に用いるなども可能なものであつて、このように用途の限定されない状況にある石油ガスをその充てんされた容器を自動車に接続して、自動車用の石油ガス容器に直接充てんした場合と同程度に、その用途が客観的に自動車用燃料として使用されることに確定された状態に置かれたとき右容器が自動車に取り付けられたものと解すべく、そして、この場合の取り付けた者とは、右状態の作出をその責任と権限において行なつた者をいうものと解される。

そこで、これを本件についてみるに、石油ガスを充てんした本件家庭用プロパンガス容器は、前記のとおり自動車の後部トランク内に積み込まれてホースで同トランク内に固定された自動車用の石油ガス容器に連結され、同容器を介してその自動車のキヤーブレター(気化器)に接続し、自動車用燃料として使用される状態に置かれたもので、この場合原告主張のごとく右プロパンガス容器を直接キヤーブレターに接続したものでなくても、右固定された自動車用の石油ガス容器と一体的に客観的にも右充てんされた石油ガスの用途が自動車用燃料として確定される状態に至つたものとみられ、石油ガス税法六条二項所定の自動車用燃料として消費するため右充てんされた容器を「自動車に取り付けた」ものということができる。

そして次に、右取り付けた者については、前認定のとおり現実の取り付け行為者は原告の営む自動車教習所の従業員の外、本件石油ガスを配達した広島ガス、ユニオンガスの従業員もいたようであるが、しかし、前認定事実に照らすと、原告は広島ガス、ユニオンガスより家庭用プロパンガス容器に充てんされた石油ガスを購入したもので、原告の主観的意図また右販売者の主観的予想はともあれ、客観的には右石油ガスの用途を自動車用燃料に限定した趣旨状態ではなく、もとより、右石油ガスの用途を限定するような特約のなされたような事情も証拠上全くうかがわれないわけで、つまり原告は格別用途の限定されない状態で右売買により石油ガスの所有権を取得したものとみられ、その配達を受けた後、右石油ガスの充てんされた容器を自動車に取り付けて自動車用燃料として消費するといつたことは、その石油ガスの所有者である原告においてのみその責任と権限において決定しかつ行ない得ることであり、原告の従業員がなした場合は原告の指示によるものとみられるのはもとより、偶々配達に来た広島ガス、ユニオンガスの従業員がなした場合も、これは、その取引上のサービスもしくは原告の指示によるものとみられ、いずれにしても、本件の場合の「取り付けた者」はすべて原告と解すべく、原告を石油ガス税法六条二項により充てん者とみなして石油ガス税の納税義務者とした被告の措置にはこの点の誤りはない。

3  なお、原告は家庭用プロパンガスは自動車用石油ガスに比し価格が高いうえ性能も劣るから実際上プロパンガスを自動車用燃料に使用して石油ガス税を脱法しようとする者はなく右プロパンガスへの課税の合理性はないごとく主張する。この主張の趣旨は必ずしも明確でないが、石油ガス税は自動車用道路整備費用の財源として設けられたもので、プロパンガスもなんらかの理由で自動車用の燃料として使用されることとなれば、自動車用石油ガスとして課税されることとなつても、なんら不合理はない。原告の右主張は採用できない。

4  以上によると、被告の原告に対する本件課税処分にはなんら違法はない。

五  結論

そうすると、原告の本件処分の無効確認を求める本訴請求はさらにその余の点につき判断するまでもなくいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺伸平 三浦宏一 永松健幹)

別表〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例